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華やかな季節は緩やかに死へと向かい、彩られた様々なものが色褪せていく、そんな季節。
あたしは十数年ぶりに故郷に帰ってきていた。
故郷と言えば聞こえはいいが、この場所には知ってるものも懐かしい思い出も、もう何もなかった。
今住んでる都心の方が長い間過ごしていることになるのだから、当然と言えば当然ではある。
ならば何故「こんなところ」に今更舞い戻って来たのかと言うと、先祖代々の墓をしばらく拝んでいなかったからだ。
……というのは要因の一つに過ぎず、永遠のお暇を頂戴したのが一番の理由。
幸か不幸か、金だけは使い道を知らず有り余っていたから、今すぐ貧困で死ぬなんてことはない。
慎ましい生活をしていけば、数年は持つ筈だ。
子どもが大人になる時間よりも長い間、一体自分は何をしていたのだろう。
これまでをどれだけ振り返ろうとしても、
「過去」なんてものが最初からなかったかのように不鮮明だった。
或いはそういう病気なのかもしれない。
それならそれで都合がよい。
今更思い出して何かに縋るなんて、惨めで、不様だ。
川原を歩いていく。
太陽が水面に反射して眩しい。
思わずしかめっ面になる。
そんなあたしを認識しているのかいないのか、数人の少年があたしの脇をすり抜けていった。
グローブと、ボールとバット。
大声を張り上げて走っていく少年達。
遠くに見える野球場で野球をするのだろう。
子どもは元気でいい。
彼らは自由だ。
これからどこへでも飛んでいける。
生きていることを証明するように、大きな声を上げながら。
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