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そして、最後の日。
丁度今日のように暑い日だった。
あの日は兄に誘われて河川敷まで散歩をしに出掛けていた。
いつものように兄と手を繋ぎ歩いていると、ふと兄があたしに言った。
「ねぇ、――は僕がいなくなったら寂しい?」
「うん」
兄の手を強く握る。
兄の手は変わらず温かかった。
「……僕もね、――がいなくなったら寂しいんだ」
「……おにいちゃん?」
「本当はそれだけで、よかったのかもしれないのにね」
河川敷を抜けて、大通りに出る。
トラックやトレーラーが行き交うこの道を横切った先に、当時のあたし達の家があった。
――そこからは、まるで時間の流れが遅くなったようだった。
遠くからトラックが走ってくる。
二人で信号が青に変わるのを待っていた。
トラックが近付いてくる。
兄があたしの手を離す。
トラックが近付いてくる。
兄が、赤信号に飛び込んでいく。
トラックが、
トラックが、兄を――。
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