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「おかえりなさい。」
僕が帰宅すると、君は笑顔でそう言った。
「特に何でもないんだけど、帰りに駅の花屋さんで見つけちゃって…ガーベラ好きだって言ってたでしょ?」
手を後ろにして隠していたガーベラのブーケを渡すと、君は笑顔からちょっと驚いたような顔になリ、そしてまたクシャッと笑った。
「ありがとう、こういうサプライズ、嫌いじゃないよ!」
嬉しそうにブーケを手を取り、花瓶を探す君。
「ガーベラ、せっかくだからテーブルに飾るね。今夜はガーベラ見ながら夕飯食べよ。今、グラタン作ってたから。」
弾んだ声で僕にそう言う。
僕は静かにうなずいて君を見つめる。
あぁ、なんて幸せなんだろう。こんなに満たされた生活が自分に訪れるなんて。
僕の人生に君のような天使が舞い降りてくるなんて思ってもいなかった。
夕飯の準備をする君を、僕は満たされた気持ちで眺めている。
けれど、君は僕と出会った時を覚えていない。
だって君は記憶を失ってしまったから。
こんなにも愛らしくて可愛らしいのに、君は何も覚えていない。
僕がどれだけ君を思い、ずっと見つめていたのかすらも。
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