今も忘れない

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北澤さんはきっちり奢ってくれた。 なのに、帰るときは「美味しかったよ、ありがとう」と私にお礼を言った。 「おじさん、お子さんはいないの?」 「今はもう二人とも大きくなって、都会に出てるよ」 「……たまに、ごはん食べてやってもいいよ」 私が言うと、北澤さんは後ろ頭をかいた。 「ほんと?でも、僕実はあんな風に声をかけるタイプではないんだ」 「わかってるよ。またたまたま会った時にね。焼きカレー食べよう。おじさんの奢りで」 おじさんは微笑んだ。干上がった頬は、カレーのせいかいくらか上気していた。 「うん。その時は、よろしくね」 それじゃあ、気をつけて帰って。変な人に絡まれないように。 それ、おじさんの言うこと? 私たちは笑って、背中を向けた。私は振り向いて、少し猫背気味の赤いマウンテンパーカが、夜の静けさの中に消えていくのを見送った。
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