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菓子折りの棚に隠れて辺りを観察していた男は、ついに諦めたように出口へと向かった。
今日はナンパしないのか。手頃な女性がいなかったというわけだ。
私はおじさんの背中を見つめた。
昨日と同じく、家までつけてみようか。
生活のルーティーンがわかれば、昼間の職業もわかるかもしれない。
しかし、男は急に立ち止まった。
そして私がここにいたことを知っていたかのように、くるりと振り返った。
目線が絡み合う。
私は固まって動けなかった。
男は、真剣な顔をして近づいてきた。
「いや、ちょっと待って来ないで」
興味はあるが接触は求めていない。
私は椅子を引いて後ずさりする。
「違うんだ、聞いてくれ。逃げないでくれ」
男は口ごもりながらも手を伸ばして近づいてくる。
私は踵を返して、スタートダッシュを切ろうとした。
そのとき、
「アケミ!」
私はびくっとして足がすくんだ。叫んだのが男だと気づくのに時間がかかった。
私はアケミではない。誰かと勘違いしている。
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