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ボランティア感覚で、一度食事をさせてくれ。
おじさんに泣かれながらそう言われては、断りにくい。
泣き落としかもしれない。そういうやり方なのかもしれない。
でも、もしおじさんが本当のことを言っていたら。
「あそこならいいよ」
私は同じ建物内の、スーパーと反対の方向をぞんざいに指差した。
こんな大型スーパーの隣の小さな洋食屋なら、何も悪さはできないはずだ。もちろんお金はおじさん持ちでという条件もつけた。
おじさんは、叱られて泣きはらした後ようやく悪事を許してもらえた子どものように、頷いた。
小さなテーブルに向かい合う。
水が運ばれてきて、私が焼きカレーを頼むと、おじさんも同じものを頼んだ。
後になって、どうして出てくるのに時間がかかりそうなものを頼んだのだろうと、後悔した。
「北澤です」
おじさんは徐ろに自己紹介した。
私が黙っていると、「いやあ、いいんだ……。名前まで聞こうだなんて思ってない……」と北澤さんが胸の前で手を振った。
涙は止まったものの、山火事に遭って黒く萎びた大木のようだ。
「私が亡くなった奥さんに似てるって?」
早くこの会を終わらせたくて、北澤さんが勿体をつけなくていいように単刀直入に聞いた。
北澤さんはわかりやすく面食らったが、顎を小刻みに揺らして頷いた。
「勝手に感傷に浸られても、こちらとしては急に声をかけられて怖かったんですけど」
「いやあ、そうだよね。ごめん……」
「おじさん、仕事は?昼間は何してるの?」
「今は、遺品の整理やらで休職中だよ」
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