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ラッキーな事に、私には同じ高校に通っているお兄ちゃんがいたので、校内の事を色々教えてくれたし、時々お母さんに言われてめんどくさそうにしながらも、宿題を見てくれた。同じ中学出身の子も何人かいたので、まだクラスで話せる人が多くなかった時も、休み時間にみんな廊下へ集まって情報交換をしながら、お互いを励ましあう事が出来た。そのおかげで、授業にはなんとかついていけるようになったし、クラスでもお昼休みにお弁当を一緒に食べる友達が少しずつ増えていった。1ヶ月が経つ頃にはこの生活にもだいぶ慣れて、真新しい制服、まだ見慣れない通学路や校舎、先生や先輩に同級生、そのどれもが少しずつ「自分の世界」に溶け込んできたような気がしてきた。
新しい生活の中でも、今までと一番大きく変わった事と言えば、放課後の部活動だ。だって中学までバリバリの運動部だった私が、高校ではなんと、ずっと縁が無かった文化系の演劇部に入ったのだから。
きっかけは桜舞う入学式の日――、式の後、クラスでの最初のホームルームが終わって帰ろうとすると、校門の周りでは上級生達が部活動の勧誘を行っていた。それぞれの部がユニフォームや道着、あとは部の活動内容と全く関係のないコスプレや着ぐるみを身につけ、とにかく一生懸命新入生に声を掛けていた。辺りはもうアイドルの出待ちみたいな混雑で、私達は、代々受け継がれていく内にほつれた何枚ものユニフォームの袖にこすられ、何年も使い込んでいると思われる何種類かの道着の臭いが混ざったエリアの中で、もみくちゃにされてしまった。そんな時、次々に手渡された沢山のチラシの中から、ある1枚に興味を持った。そのタイトルはこんな感じだった。
――『初心者も大歓迎! 楽しい演劇ワークショップ開催』――
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