春雷の来訪者

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天井ギリギリまで浮かび上がった彼女が、電撃を連射してきた。電撃が流星のように次々と部屋の中に降り注ぐ。相手は私の股下、頭の上、脇腹の近くと、ギリギリの所に撃ってくるので、跳ねたりしゃがんだり身体をねじったりしてなんとか避けた。その姿は、変な創作ダンスを踊らされているみたいでカッコ悪かった。 彼女は休む事無く電撃を放ちながら、避けるのが精一杯の私を、操り人形のように動かして壁際に追い詰めた。 「観念せよ人間、大人しく私にヘソを委ねるのだ!」 彼女は勝利を確信したかのように高らかとまくしたてた。私の周りには、電撃が当たったカーペットのこげ跡から、白く細い煙と生地の焼けた臭いが立ち上っていた。 「絶対に嫌! 誰があげるもんですか!」 カミナリ様相手にしては、我ながら大した威勢の良さだ。だけど、両膝はガクガクと震えていたし、完全に強がりだった。 「この期に及んで、なんと勇敢なる者よ。まあ、服の上からでもヘソは取れる。だが私も電撃で服を破るのは気が(とが)める。今の内に服を(まく)るが良い」 ずいぶん偉そうな気遣いをするものだ。でも、これだけ圧倒的な力差では、そういう風に言うのもある意味当然なのかもしれない。 こういう状況を「風前の灯火」というのだろう。おヘソを取られる時はやっぱり痛いのだろうか、おヘソが無くなったらどうなってしまうのだろうか、そんな事を考えながら電撃を待ち受けていた。
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