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それが演劇部のチラシだった。ワークショップというのは、簡単なゲームやお芝居の体験を通して、演劇の魅力を知ってもらうイベントの事で、一般の劇団でも団員を集める為の方法として実施しているらしい。ちょっと興味が湧いたので、次の日同じクラスの森田さんを誘って参加してみた。
会場となったスタジオでは、部の活動内容について説明を受けた後、何組かのグループに分けられ、いきなり短い台本を渡されて演技をする事になった。シナリオは古めかしい中世ヨーロッパの騎士道物語だった。キザで耳慣れないセリフが多く、一番先に演じていたグループは恥ずかしそうに小さな声でセリフを読んでいた。その後のグループも同じようにやりづらそうな「初々しい演技」を披露し、会場が適度な緊張感と笑いに包まれる中、私達の順番が来た。私は領主に仕える従者の役だった。本番では無いものの記念すべき初舞台、とにかく自分なりの演技をしてみよう。領主役の森田さんのセリフを受けて、私はひざまづいた体勢で第一声を発した。
「お待ち下さい、ご主人様! どうしても行かれるというのなら、私めもお連れ下さい。貴方様の苦難に満ちた旅程の露払いを務めましょう。……恐れながら一つだけお願いがございます。旅を終えて無事この花咲く庭に戻る事が出来ましたら、祝いの宴を開きましょう。そしてその時だけは、この下僕めを貴方様の『友』として傍らに居る事をお許し下さいますでしょうか?」
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