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「あっ……せんぱい、せんぱいっ!」
小さく震える手でシーツを握り締めている望は、涙を浮かべた瞳を上級生に向けて、どちらのものともつかない唾液で濡れた薄い唇でそっと許しを乞う。
「せんぱい、俺……もう……ッ」
太く逞しい腕に縋り付いてみせれば、上級生の動きもより速くなる。
荒々しい呼吸に混じって獣のような呻き声を聞いたところで、望も一際大きな嬌声をあげながら体をしならせ、ビクビク小刻みに痙攣させた。
***
「……んっ、ねぇ先輩……重いよ」
「うるせぇ、ちょっと黙ってろ……っ」
お互いに囁く程の声しか出ない状態で、暫く体を重ね合ったまま余韻に浸る。覆いかぶさっている体温が無性に欲しくな
り、甘えるように年上の広い背中におずおず手を回した。
しかし彼は荒い呼吸を整えるや否や、自身にある避妊具を処理する為にさっさと望から離れていく。
まだ仰向けで息を乱しているこちらを気にする素振りも無く、自分だけ汗を拭くなど身なりを整え始める大柄の男をぼんやり眺めていた。
「噂では聞いてたけど本当に後ろだけでイケんだなお前」
携帯端末を操作する手を止めずに上級生は言う。前をいじってやる必要が無く楽だと下品に笑う彼に、ただ侮蔑の視線を投げ掛けたが、当の本人は画面に夢中で気付きやしない。
後ろだけでイケる? そんなわけ無いだろう。それも、あんなド下手なお遊びで――心の中でなら毒づくのも自由だ。
今ここで本命らしき人物とメッセージのやり取りをしている彼とは、俗に言うセフレという関係にあたるのだが、望にはこの男以外にも何人か同様の相手がいる。
しかし、ただ寝ただけの彼等は何も知らない。高校一年生であるにもかかわらず、これまで幾人と体の関係をもってきた望が、実は一度も絶頂を迎えた事が無い事を。それどころか、性行為を気持ちいいと感じた事すら無い事も。
適当に演技をすれば簡単に騙されてくれる彼等を、涙を流しながらどれほど冷めた目で見ていたか。
盛のついた犬のように腰を振る姿はとても滑稽で、甘く喘いだその口で思わず笑い声をあげそうになるのを何度我慢したことか。
さっきまでの声や表情や体の反応も全て演技だと知れば、この上級生はどう思うだろうか。
いや、案外なんとも思わないかもしれない。彼らは自分の快楽だけが全て、自分さえ気持ち良ければそれでいいのだ。
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