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「二年C組、柿原望です。よろしくお願いしまーす」
朗らかな笑顔を向けた先には、十人にも満たない男子生徒達。学年もバラバラな彼等はみんな望と同じ班である。
ここ、東雲学園高等学校では、毎年この時期に新入生歓迎会と称し、敷地内の広場を使って、全校生徒でバーベキューを楽しむ。いわばこの学園ならではの伝統行事だ。
全寮制の男子校という特殊な環境で、新入生の中には一種のホームシックのようなものに罹っている者もいるだろう。
それを少しでも軽くする為にと、先輩である二・三年生と共に少人数で班を組み、作業や食事を介してコミュニケーションをとりあって、一年生が早く学園生活に馴染めるようにする、というのが主な目的らしい。このイベントは処世術が巧みな望にとっては、まさにお誂え向けといえよう。
だからなのか、はたまた偶然か、望の班には一人風変わりな一年生が紛れ込んでいた。
「これで二年は全員自己紹介したな。じゃあ次は一年、お前からな」
場を仕切る三年生の言葉に促され、その一年生に目線を送った。
鋭い猫目を明後日の方向へ流している彼を見た時に、真っ先に目がいったのはその派手な頭髪だ。無造作にセットされた金髪は、晴れた空の輝きを吸収したように眩しく、そこに混ざった黒いメッシュが野性的な威圧感を放ち、まるで虎の毛皮のような印象を受けた。
最近まで中学生だった割に発育が良い体は、一つ年上である望よりも大きく、しかし幼さが残る顔立ちや、完成しきっていない筋肉等から、所々に発展途上である様が伺える。
虎は虎でも、さしずめ大人になりきれていない若虎といったところか。
さてこの若虎だが、先程からこちらが黙って視線を送っているのに一向に口を開こうとしない。それどころか、不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、耳にあるピアスを弄っているのだ。
どうしたものかと思い、ちらりと班長の三年生を見やると、案の定困惑した表情で名簿を確認していた。
「えー、天野秀虎くん、か。よろしくなー」
なんとか場を繋げようとした班長の努力も虚しく、その秀虎という一年生はそっぽを向いたまま無反応を貫いており、流石に班長の口元も引きつっている。
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