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虹の湯
耳鼻科って、10年以上進歩していないよね、と、陸が靴下を脱ぐ。
「どうして」
フローリングに脱ぎ捨てられた靴下を、すかさず顔に載せながら、俺が尋ねると、
「ああっ、ごめん」
慌てて靴下を奪い取り、ランドリーボックスへ持っていく。
「もう、やめろよ、ダイキ。脱いだ靴下被るの。オレの心臓に悪いよ」
「だめだ。やめてほしければ、ちゃんと脱衣所で脱げ。放置する限り、俺はやるからな」
暮らし始めて、いろいろわかったことがある。
陸は、デートをするだけなら最高のパートナーだが、生活の面では少々だらしない。
靴下をかぶるのは、俺流の抵抗だ。
「で? なんで進歩してないって思ったんだよ」
「鼻からの吸入器って未だにあるんだなあと思って」
花粉症でかかった耳鼻科で、鼻に直接差し込む吸入器、ネブライザーを目の当たりにして、ショックを受けたらしい。
「一列に並んで、4人もだよ、大の大人が」
「花粉症の季節だからな。もう一台増設したいくらいだろうよ」
「あ、それいいビジネスかもしれない、花粉症の季節だけ、ネブライザーを貸し出すんだ」
「それ以外の季節は実入りがないだろうが」
能天気なのか冗談なのか、わからない。
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