虹の湯

1/4
83人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

虹の湯

 耳鼻科って、10年以上進歩していないよね、と、(りく)が靴下を脱ぐ。 「どうして」  フローリングに脱ぎ捨てられた靴下を、すかさず顔に載せながら、俺が尋ねると、 「ああっ、ごめん」  慌てて靴下を奪い取り、ランドリーボックスへ持っていく。 「もう、やめろよ、ダイキ。脱いだ靴下被るの。オレの心臓に悪いよ」 「だめだ。やめてほしければ、ちゃんと脱衣所で脱げ。放置する限り、俺はやるからな」  暮らし始めて、いろいろわかったことがある。  陸は、デートをするだけなら最高のパートナーだが、生活の面では少々だらしない。  靴下をかぶるのは、俺流の抵抗だ。   「で? なんで進歩してないって思ったんだよ」 「鼻からの吸入器って未だにあるんだなあと思って」  花粉症でかかった耳鼻科で、鼻に直接差し込む吸入器、ネブライザーを目の当たりにして、ショックを受けたらしい。 「一列に並んで、4人もだよ、大の大人が」 「花粉症の季節だからな。もう一台増設したいくらいだろうよ」 「あ、それいいビジネスかもしれない、花粉症の季節だけ、ネブライザーを貸し出すんだ」 「それ以外の季節は実入りがないだろうが」  能天気なのか冗談なのか、わからない。     
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!