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 インドから帰ってきて一ヵ月後、大事な話があるからと母から呼び出され、小春と夏夫は実家の最寄駅で顔を合わせた。 「なんで俺たち、わざわざ呼び出されたんだろ。離婚の話なら、もうインドで済んだはずなのに」  夏夫が不満たっぷりに言った。小春にも呼び出された意図が分からない。 「離婚届を出すのに付き合わされるのかな。あ、もしかして、旅行代金、払えとか……」 「え、それはまずい。俺、貯金ないんだけど」  帰ろうとする夏夫を無理矢理ひきずって、小春は実家のドアを開けた。 「よく来たな、ふたりとも。まあ、座りなさい」  改まった様子で父が言った。母はすでにダイニングテーブルの定位置についている。小春と夏夫もそれぞれ子供の時に座っていた位置に座る。 「あなたたちをわざわざ呼び出したのは、契約の証人になってもらいたいからなの」  母がテーブルの中央に数枚の紙の束を置いた。書類の表紙には、結婚更新契約書と書いてある。 「結構細かいから全部読めよ」  と、父が言った。小春は兄と顔を寄せ合って細かい文字を読んでいく。 「結婚の契約を更新するにあたって、夫・満夫と妻・小百合は以下の条件を守ること。なおこの契約は一年ごとの更新とし、条件もその都度見直すこと」  夕食は週に一度は満夫が作る。昼食は各自が勝手に自分のものを準備する。半年に一度は旅行に行くこと。相手を思いやる。月に一度は外食に行く……。 「なにこれ。お母さんたちが作ったの?」  父と母は真面目な顔でうなずいた。ここまで細かい規定を作るためには徹底的に話し合ったのだろう。 「事情がよく分からないんだけど、もしかして、離婚やめたってこと?」 「とりあえず、一年はね」と、母が言った。 「最後まで読んでね。ここが大事」  母が指さしている場所を小春は読み上げる。 「なお、契約は一年更新とし、本契約の規定事項が履行されない場合、次回の更新は見直すこととする」 「結婚は契約だという原点に返ったわけだ」  と、夏夫が言った。やったーと小春は子どものようにバンザイをした。  兄と母が晩ご飯を食べて行くか行かないかで押し問答をしている横で、小春は夫に『インド効果あったよ』とメールを送信した。 〈了〉
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