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家族旅行の行先を強引にインドに決めてしまったのは夏夫だった。小春は反対した。インドと親たちの性格は相性が悪そうだと思ったからだ。それに兄は家族旅行にふさわしいと思って提案しているわけではなかった。単に自分が行きたいから言っているだけだ。
「インドなら家族旅行に、一緒に来てくれる?」
と、小春は兄にたずねた。経験があてになるかどうかはともかく、夏夫がついてきてくれるかどうかは、今回の小春の計画において非常に重要なポイントだった。
「そうだなあ、インドなら行こうかな」
夏夫がそのセリフが決め手になって、行先はインドに決定した。
父を誘うのは簡単だ。昨年定年退職した父が、母と海外旅行に行くためにいろいろリサーチしていたことを小春は知っていた。母が行きたいと言えば、渡りに船とばかりに乗ってくる。
問題は母だった。
小春が、母から離婚を考えていることを聞かされたのは、先月のことだった。
話がある、と呼び出したのは小春の方だったのに、ちょうどわたしも小春に話があったのよ、と母から打ち明けられたのだ。
「何でいまさら?」
小春の第一声はこれだった。母は今年で六十歳だ。父は六十一歳。もう三十年以上は夫婦をやっている。長い年月の間にはいくつも行き違いがあっただろう。子どものことでケンカしている親を見たこともある。でも、それも乗り越えて、ようやく夫婦二人でのんびりできるというときに、どうして離婚なんてする必要があるのか、小春にはまったく理解できなかった。
「いまさらって何よ。どうせ、もうあと数年でくたばるんだから我慢しろってこと?」
「そんなこと言ってないよ。数年とか思ってない。お父さんにもお母さんにはあと二十年くらい生きてほしいよ。だからこそ、その二十年を夫婦仲良く一緒に過ごして欲しいんじゃない」
「誰と誰が仲良く一緒に暮らせるって?」
お父さんとお母さんが……と言いかけた小春は、母ににらまれて口をつぐんだ。
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