序章

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序章

「おにぎりが嫌でも別に困らないですから。そもそも悲しい嘘とか優しい嘘ってなんですか・・・所詮、嘘は嘘じゃないですか!!」 ヒステリックに叫ぶ私と対照的に静まり返る店内。 感情を抑えきれず咄嗟に叫んでしまった。流石に少々まずかったと気づく。しかし怒りの気持ちがはるに大きい。私はその勢いで千円札を一枚カウンターへ勢いよく叩きつけ無言で立ち上がるとカウンターを後にした 「待ちなさい、優衣ちゃん!」 「え、ちょ、優衣ちゃん」 「・・・・・・」 難しい顔の青木さん。唖然とした星野さん。心配げな町田さんの視線を尻目に無言のまま店を出た。 ああ、そうだ。おにぎりなんて食べたくない。それ以前に見たくもない。それの何がいけないのか。本当にくだらない。どんな理由を並べても嘘は嘘だ。 理由などいらない。 あれは小学校六年生の秋だった。 そして私はあの日を最後に人の手で握ったおにぎりを食べたことは無い。そう、ただの一度もだ。
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