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常に動ぜず
「『さつき』です。本気で正直者が生きやすい日本を作りたいとお思いの方。どうかわたしに力をお貸しください」
さつきとかおるは選挙区の路地裏を歩いて回った。
大通りに出て顔を売る必要はなかった。
よくも悪くも、
「ああ、『さつき』ね」
と知名度は全候補者の中で抜群。
そして、ポーズではなく本気で真正面から「正直と一生懸命」をポリシーとして訴えるこの『若くて危険な革命者』を潰そうとあらゆる政党・候補者・ロビイストたちがネガティブキャンペーンの全エネルギーをさつきに集中させていた。
「脛齧りの分際で講釈垂れるなよ」
「小娘がきれいごと言うな」
という類のツイートが様々なアカウント名で流される。
路地裏にもそれを真に受ける人たちが多勢いた。
「ねえ。アンタ、その男と同棲してるんだってね」
かおるを指差して薄く笑う老婆がいた。
さつきはそんな老婆の目線にしゃがんで語りかける。
「同棲はしてませんし、それは重要なことじゃありません。重要なのはおばあさんが残りの人生を大事に生きることです」
「残りの人生だって?」
「はい。おばあさんもわたしもいつか死にます。今の内に早くいい世の中にしませんか? わたしと一緒に」
かつての同級生とも鉢合わせた。
「バカじゃねえの。せっかくいい大学行けるだけの成績だったのによ」
「その大学って50年後も存在する? わたしにはこっちの方が大事。いえ、むしろ焦っている」
小さな子たちも容赦なかった。
「つッ!」
「うえーい、ゲス女ー!」
石つぶてを投げつけて走り去る幼稚園か小学校低学年の男の子たちと何組も遭遇した。
そんな時、かおるは黙ってさつきの前に立ち、無言で盾となった。
「かおるくん、血が」
「平気だよ、さつきさん。こういうのは昔から慣れてるから」
どちらが本当の男かは明らかだった。
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