1:初めましては傘の中

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【side:フウカ】 ついさっきまでは小雨だったのに! 夕方、電車を降りて帰路に着こうとするわたしを、滝のような雨が通せんぼした。おまけに風がとても強くて、まるで嵐みたいだ。 ああ、そういえば、職場で台風が来るとか耳にした気がする。十月でも台風は来るらしい。 天気予報をチェックする習慣がまるでないから、空模様とはいつも行き当たりばったりの勝負。残念ながら、今日はわたしの完敗だ。 まさに女心と秋の空。この大荒れは全然予想がつかなかった。だって、朝は降ってすらいなかったもの。 激しい雨が容赦なく叩きつけるせいで、アスファルトからは白い煙が上がっている。 あーあ。こんな中を歩いて帰らなきゃいけないなんて。絶対びしょ濡れになる……。 一応傘は持っている。この嵐を歩くにはかなり心許ないこのビニール傘は、会社を出た時にコンビニで購入したのだ。 けれど、自宅までは徒歩でほんの五、六分なのだ。このまま駅で立ち往生するのも悔しい。 はあ、と大きなため息をひとつ豪雨に溶かしてから、わたしはようやく一歩を踏み出した。
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