(1) 妻の怜子との結婚記念日

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そう、僕も解っていた。 これが現実ではなくて、僕の頭の中で勝手に展開されるストーリーであることを。 最近、どういう訳か、 普通にしていても、勝手に色んなことを考えだしてしまうという癖が出るようになってしまった。 こんな屏風に字を書くなんてのも、まったくの妄想である。 それでも、妄想と現実が、どちらも溶け合って、僕の思考が成立している。 妄想だけを止めることが出来なくなってしまっているのである。 とはいうものの、生活に支障が出る訳じゃないし、ただ、頭の中で考え事をするだけのことである。 問題ないじゃないか。 「レシピを考えてたって、あなた、おかしいでしょ。だって、笑ってたもん。レシピ考えて、笑いますか。」 「笑ってたかもしれないけれど、覚えてないし。レシピ考える他に、何考えるの。」 「それは、あたしは知らないわよ。でも、笑ってた。」 「そうなんだ。笑ってたこと忘れるなんて、僕も、もう年なのかな。」 「ふうん。何だか分かんないけど、そうしといてあげる。」 そういって、怜子は目を細めてスープを飲んだ。     
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