(1) 妻の怜子との結婚記念日

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怜子に妄想を指摘されたら、これ以上妄想を続けるのは難しい。とはいうものの、屏風の右隻だけに文字を書いて、左隻の屏風は何も書かないで終わるのは気持ちが悪いだろう。 たとえ、それが妄想でもである。 そこで、怜子が料理に気をとられている間に、そっと妄想を続けた。 急いで左隻の屏風に字を書き込まなきゃいけない。 とはいうものの、こんな時に限って字が思いつかない。 何しろ、ジョークで書いた右隻の「無事如意」である。 もう、それだけで、字としては完結してしまっているじゃないか。 なので、左隻には、何を書いたって、蛇足というか、2隻の屏風としてバランスの悪いことこの上ない。 とはいうものの、あれこれ考えている暇はない。 すぐにでも妄想を離れて現実に戻らないと、また怜子のツッコミがくる。 仕方なく、半分ヤケクソ気味に、左隻の折り曲げの、1番左端に、思いっきり筆を振り下ろして、「、」チョンと点を書き入れた。 右隻には、「無事如意」の文字。 左隻には、「、」だけが、3面の余白の次に書き入れられている。 余白の大きさが、妙にバランスが悪いが、これもまた味というものだろうと、自分勝手に決め込む。 横にいた住職が、「いやはや。」と言って腕組みをした。 その姿を妄想して吹き出しそうになったが、これは必死に堪えなきゃ、また怜子に笑ったことを指摘されそうである。     
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