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怜子に妄想を指摘されたら、これ以上妄想を続けるのは難しい。とはいうものの、屏風の右隻だけに文字を書いて、左隻の屏風は何も書かないで終わるのは気持ちが悪いだろう。
たとえ、それが妄想でもである。
そこで、怜子が料理に気をとられている間に、そっと妄想を続けた。
急いで左隻の屏風に字を書き込まなきゃいけない。
とはいうものの、こんな時に限って字が思いつかない。
何しろ、ジョークで書いた右隻の「無事如意」である。
もう、それだけで、字としては完結してしまっているじゃないか。
なので、左隻には、何を書いたって、蛇足というか、2隻の屏風としてバランスの悪いことこの上ない。
とはいうものの、あれこれ考えている暇はない。
すぐにでも妄想を離れて現実に戻らないと、また怜子のツッコミがくる。
仕方なく、半分ヤケクソ気味に、左隻の折り曲げの、1番左端に、思いっきり筆を振り下ろして、「、」チョンと点を書き入れた。
右隻には、「無事如意」の文字。
左隻には、「、」だけが、3面の余白の次に書き入れられている。
余白の大きさが、妙にバランスが悪いが、これもまた味というものだろうと、自分勝手に決め込む。
横にいた住職が、「いやはや。」と言って腕組みをした。
その姿を妄想して吹き出しそうになったが、これは必死に堪えなきゃ、また怜子に笑ったことを指摘されそうである。
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