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それから、4度目の夏が来た。
「ねえ、ちぃちゃん」
残暑厳しい真夏日の下、汗が引く素振りの微塵もない僕を扇ぎながら、スズ姉は控えめに口を開く。
顔には笑みを刷いてはいたけれど、そのどこか寂しげな微笑には見覚えがあった。
『私ね、かえってきたわけじゃないの。ほんの少しのお目こぼしで、こちらとあちらのあわいが揺らぐこの日にだけ、渡ってこられただけで』
スズ姉がいなくなって最初の盆の再会の日に、そう彼女は言った。
あのときと、同じ表情だ。
「私、もう会えない」
「え…」
どうして、という気持ちと、ついにこの日が来たかという観念とが、ないまぜに胸へと去来する。
これから先、たとえば僕が死ぬまでずっと、この束の間の逢瀬か繰り返されるのだと、無邪気に信じていたわけじゃない。
今日と同じ明日が当然に来るはずなんてないことを、僕はもう知っていた。
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