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「私ね。もうすぐ神様になるんだって。覚えてる?初めてのおまつりの時、神社で会った、狐のお面のお兄さん。あのひとにね、言われたの。もう待ってあげないよって」
ぽつり、ぽつりと、まるで自身に言い含めるようにスズ姉は言う。
「行かないで、って、言っても駄目なんだよね?」
「――駄目、かな」
「どうしても?」
「――どうしても、だよ」
スズ姉に初めて出会ったとき――それがいつかなんて、覚えていなくても構わない。
ただ、スズ姉が僕やみんなとここにいたことを、ずっと忘れさえしなければそれでいい。
「嫌、だ…」
そう思っていた。
でも違う。
それだけじゃ駄目だ、スズ姉に会えなくなるのは、嫌だ。
まるで10年以上前に戻ったように、聞き分けなく僕は言う。
駄々をこねているのだと自覚はあった。
それでも、言わずにはいられなかった。
「それなら僕もいっしょに――」
「駄目だよ」
言いかけた言葉を、スズ姉の白く長い指が塞いだ。
「言葉には力がある。それ以上は言っては駄目。言質を取られたら終わりだよ」
スズ姉は、寂しそうな笑顔はそのままに、けれどその双眸には強い制止の光を孕んでいた。
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