なくしたもの

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 僕は背が伸び、腕も伸びた。  以前はまるでしがみつくようだったその毎年の儀式も、僕が中学に上がったころから、きちんとこの腕の中にスズ姉を抱き込むことができるようになっていた。  スズ姉は、記憶の中の去年の彼女よりもまた一段と大人びた様子で、白いノースリーブのワンピースからのぞくその細い細い腕を、そっと僕の背に回す。  埋めた首筋からふわりと立ちのぼる花の香りにくらくらと眩暈がした。 「ちぃちゃん、汗びっしょりだね」  僕の背中にシャツが張り付くのを手のひらで楽しむ調子で、スズ姉は言う。  ふふ、と含むように笑うのが彼女の癖だ。  さすがに汗臭かったか――と咄嗟に身を離すと、もう少しこのままでも良かったのにと、名残惜しそうにまた笑った。 「しょうがないだろ。バス停から走ってきたんだ」 「それ、高校の制服?」 「夏服だから、中学と大差ないけどね。結局学ランだし」 「高校生、いいね。なんだかカッコイイ」  いいね、の言葉に、僕は密かに声を詰まらせる。  スズ姉が、早くなりたいと憧れて、ついぞ叶わなかった小さな、望めば多くの中学生が叶えられるその小さすぎる夢を、突きつけてしまったような気がしたからだ。
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