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盆とはいっても旧暦に応じた盆なので、もう8月も下旬、折しも2学期の始まる頃合いだった。
まさか始業式からサボるわけにもいかず、ホームルームが終わるや否や、急いで帰ってきたのだ。
少しでも早く、そして長く、スズ姉に会いたい気持ちに駆られてここへまっすぐ来たけれど、一旦家に戻って着替えてくればよかった。
後悔しても、遅い。
スズ姉の表情からは、純粋に姉が弟の進学を喜ぶような祝福しか見て取れないが、その内心には羨望や悔恨や何かしらの葛藤があるのかもしれなくて――そこまで考えたところで、違う、と思い直した。
スズ姉はそういう人じゃない。
大人しそうな見た目と口調に反して、言いたいことははっきり言うし、後ろ暗い感情に絡めとられる姿なんて一度も見たことがない。
だからこれは、ただの願望だ。
そう思っていて欲しいと――未練がある、そうあって欲しいという、僕の幼稚なほどの想いに相違なかった。
「高校はどう?」
「とりあえず人がいっぱいいる」
「どれくらい?」
「学年に10クラスあるんだ。ちなみに1クラスは40人近くいる」
「すごく多いね」
「ね。びっくりするだろ?」
他愛のない、僕の近況報告から始まるのが再会したときのセオリーだ。
スズ姉は、自分の家族のことは訊いてこない。
だから僕はいつも、僕と僕の周りのことだけ、請われるままに話すのだった。
ありふれた、何気ない、彼女との日常を取り戻すように。
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