第一章

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「へん。見たか、延塊帝の跡継ぎ、あの頼りなさそうな帝。あれでこの国を背負って立とうってんだからな」  馬喰(ばくろう)の軽口は止まらない。延塊帝の子息である駕延は身の丈は女のように小さく細い。まさしく柳のようだと、庶人の口さに上る。  おまけに即位式の挨拶の時には、声が小さいと、庶人に詰られた経験をもつ。 「大体十六や十七で人の上に立てるかい!」  馬喰はまた豪快に笑い、豚足に噛み付いた。 「いや、もう十八だよ」  鄭淑(ていしゅく)が横から云った。盆の上に酒を載せ、客の前に置いていく。 「十八でも餓鬼だろ」 「まあ、そうさなあ、十八年しか人生歩んでいないもんなあ」  とまたもや違う酔っ払いが云った。 「そうだろそうだろ。それによ、宦官の見廻りも最近ご無沙汰みたいだしよ」  馬喰は云った。 「そう云えばそうね。延塊帝崩御の後、お上の影が薄いわね」  鄭淑はくすりと微笑った。 「怠けてんだ。そうに決まってる。政治も戦も怠慢続きだと、隣国に足掬われるぞ」  駕絡国から見て北方に華夏国、西方に沙那国がある。そして、駕絡国の南西内側に蓬莱と云う国がある。これが故あって、駕絡国を間借りしているかたちになっている。  現状、蓬莱を除く三国は、覇権争いをしている。三竦みの状態が、かれこれ百年近く続いている。三国の特色として、軍事力で他を圧倒する華夏国、物資資源が豊富な沙那国、海を隔てた他国と貿易の盛んな駕絡国。因みに蓬莱国は、東の島国倭の民が棲んでいる国である。 ―して、角から嗤い声が聞こえてきた。 「おい、何、嗤ってんだ」  馬喰は憤慨し、立ち上がった。
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