117人が本棚に入れています
本棚に追加
「へん。見たか、延塊帝の跡継ぎ、あの頼りなさそうな帝。あれでこの国を背負って立とうってんだからな」
馬喰の軽口は止まらない。延塊帝の子息である駕延は身の丈は女のように小さく細い。まさしく柳のようだと、庶人の口さに上る。
おまけに即位式の挨拶の時には、声が小さいと、庶人に詰られた経験をもつ。
「大体十六や十七で人の上に立てるかい!」
馬喰はまた豪快に笑い、豚足に噛み付いた。
「いや、もう十八だよ」
鄭淑が横から云った。盆の上に酒を載せ、客の前に置いていく。
「十八でも餓鬼だろ」
「まあ、そうさなあ、十八年しか人生歩んでいないもんなあ」
とまたもや違う酔っ払いが云った。
「そうだろそうだろ。それによ、宦官の見廻りも最近ご無沙汰みたいだしよ」
馬喰は云った。
「そう云えばそうね。延塊帝崩御の後、お上の影が薄いわね」
鄭淑はくすりと微笑った。
「怠けてんだ。そうに決まってる。政治も戦も怠慢続きだと、隣国に足掬われるぞ」
駕絡国から見て北方に華夏国、西方に沙那国がある。そして、駕絡国の南西内側に蓬莱と云う国がある。これが故あって、駕絡国を間借りしているかたちになっている。
現状、蓬莱を除く三国は、覇権争いをしている。三竦みの状態が、かれこれ百年近く続いている。三国の特色として、軍事力で他を圧倒する華夏国、物資資源が豊富な沙那国、海を隔てた他国と貿易の盛んな駕絡国。因みに蓬莱国は、東の島国倭の民が棲んでいる国である。
―して、角から嗤い声が聞こえてきた。
「おい、何、嗤ってんだ」
馬喰は憤慨し、立ち上がった。
最初のコメントを投稿しよう!