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二
処変わって―。
その高札を見た時、樹里は心に決めた。
―よし、あたし此処に行く。
駕絡国、徐安州行人町にて―。
『コノ度、新帝駕延ノ世継ギヲ産マントスル宮女ヲ募集スル。歳十三~十八迄。』
と、書かれた高札が町の至る所に立てられた。
樹里はそのひとつを見ていた。黒山の人集りである。
高札の文章はこう続く。
『宮女二百名、後宮ニ住マワセ、勉学、教養ニ勤シム事ニ準ズル。代ワリニ一生ノ安泰ヲ約束ス。』
と、ある。
が、一生の安泰と云うのはあまりにも抗弁過ぎる。国が傾いたら、後宮は如何なるか知れたものではない。
しかし樹里は、
―あたし、宮女になる。
と、張り切っていた。
だが、如何であろう。樹里の容姿は、とても後宮に行けるような身形ではない。あちこち破けて煤けた布地の衣服を纏い、髪の毛は乱れ、顔にはどこで付けたのか泥が付着していた。
右肩には、薄汚れた鞄を掛けている。
頭をぽりぽり掻き、「あたし、後宮行こう」と、口に出した。すると、横にいた酒臭い息を吐く中年が、「おい、莫迦かお前は。お前みたいな汚い女が後宮に入れるか。門前払いだ。はっはあ」と、嗤った。
「なにおお」樹里は怒った。
「おっさん、初対面で云って良い事と悪い事があるよ」
「じゃあ、今のは云っても善い事だな。だって、事実だもんよお」
「むっかあ」
樹里は、酔っ払いの襟首を掴みに行った。
「おっさ……」
と云い掛けたところに、さっと、何かが横を掠めた。
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