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「もう、安藤先輩以上に好きになれる人なんて、きっと一生現れないよ」
彼女の声はますます細く切れ切れになり、瞳はみるみる潤み出した。そして顔をくしゃくしゃに歪めたかと思いきや、次の瞬間、幼子のように「うえ~ん」と号泣し始めたのだ。
「ちょ、化粧が崩れますよ」
俺は慌ててジャケットのポケットからハンカチを取り出すと、腰を屈めて先輩の顔を覗き込んだ。
「まったく、飲めない酒を無理して飲んだりするから…」
しかしそこで鼓動がはねあがる。俺を見上げた先輩の瞳から溢れ出していた大粒の涙が、頬を伝って瞬く間に落下する様を目の当たりにしたから。
それはまるで夜空を翔る、一筋の流れ星のようだった。
……なんつって。
「泣かないで下さいよ……」
見つけてしまった以上知らんぷりはできない。
「そんな顔されたら、俺…」
気付いてしまった以上、もう抗う事なんかできない。
その行動に出ることによって、その後どういった事態になるかなんて事はおかまいなしに。
俺は本能が指令を出すよりも早く、願い事を3回唱える儀式はもちろん放棄して、再度現れた美しい星を落とすまいと、更に身を屈め、先輩の目元に素早く口づけた。
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