本能よりも速く

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祖父は国内でトップシェアを誇る医療機器メーカー「株式会社アンドウ」の創業者で現会長、そして父親は社長。 同社に入社して4年目の先輩は今のところはまだ修行中の身らしいけど、将来跡を継ぐのは確定事項であった。 お金持ちでビジュアル良し頭良しでなおかつ性格もエレガントだなんて「今時少女漫画でもそんなわざとらしくてあからさまな設定のヒーローなんかおらんわ」と突っ込みを入れたくなるくらい、ベタでセオリー通りの高スペック男なのであった。 そして多田さんの方も負けてはいない。 父親と母親はそれぞれがパイロットと元キャビンアテンダントで、その頭脳と美貌のDNAは当然彼女にも受け継がれ、高校も大学もトップ入学、しかも「ミス〇大」に選ばれた才色兼備。 美男美女、お坊ちゃまお嬢様同士の、もうホント、誰もが認めざるを得ないフローレンスなカップルなのだった。 …いや…。 そこで俺は自分自身に訂正を入れた。 認めていない人も、俺が知る限りでは約一名いるんだよな。 「あんた、あの娘のことが好きなんでしょ?」 と同時に、その人物との、一番印象に残っている場面が脳内スクリーンに再現される。 「だったら指くわえて見てないでどんどんアタックしなさいよ。あの娘があんたによろめいた隙に、私が安藤先輩をいただくんだから!」 そんな過激な発言をしていたその人は、同じくサークル仲間で一つ年上の坂上詩織さん。 その会に所属している人にしては珍しく(俺に対してだけ)横柄で居丈高でエキセントリックな女性だった。
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