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俺の声に振り向いた彼女は途端に目を吊り上げ、恨めしそうに吐き捨てる。
「何よ役立たず」
「ちょ、久々の対面なのに第一声がそれって酷くないスか?」
「とうとうあの二人、婚約まで漕ぎ着けちゃったじゃないの。これでもうおしまいよ」
低音の、まるで呪詛のような呟き。
自分の事は棚に上げて、詩織先輩は事ある毎に俺に「早く多田さんを口説きなさい」と指令を出して来た。だけどそれをクリアできず、このような結果になってしまったので「役立たず」発言が飛び出したのだろう。
というかそもそも、俺の思いは誰にも告げずにひた隠しにしていたつもりだったのに、何故に先輩には気付かれてしまったのか…。
その疑問をぶつけた際、「恋する乙女のエスパーっぷりを舐めんなよ」ととてもファジーな回答をされたけど。
「言っときますけど、俺だって同じようにブロークンハートなんですからね。八つ当たりはやめて下さいよ」
苦笑いを浮かべつつ、ひとまず反撃した。
「知らないわよそんなの。男なんだから失恋くらいでガタガタ言うんじゃないわよ」
「うわ。相変わらず清々しいまでの身勝手さですね」
抗議しながらも、俺は彼女との会話を心底楽しんでいた。それを認識した所で俺の今日の最大の目的は無事完了する。
やっぱり、間違いなかったか。
すると先輩は今度こそ扉を押し開け、屋外に足を踏み出しつつ宣言した。
「悪いけどあんたの相手してる余裕はないの。駆けつけ一杯にシャンパンをあおったら酔っちゃって」
「えっ。飲んじまったんですか?」
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