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「ここって結婚披露宴とかにも使われるらしいけど、セレブな人達の御用達で、一般人にはすこぶる敷居が高いし。こんな機会でもなければ一生お目にかかれなかったかもしれない」
「そうですね」
「でも、だからこそ…」
そこで先輩は声を震わせた。
「余計に悲しくて切ない。こんな素敵な場所で「安藤博也の婚約者」として関係各位に大々的に紹介してもらえるあの娘がつくづく羨ましくて妬ましい」
「先輩…」
「本当は来たくなかったけど、でも、『大切な仲間に俺達の門出を祝ってもらいたい』なんて懇願されちゃったら、とてもじゃないけど断ることなんてできなかった」
「ですよね…」
そう答える俺の心はすこぶるざわついていた。
婚約してもなお、これほどまでに一途に詩織先輩に思われているなんて…。
別の意味で今、安藤先輩は俺の恋敵になった。
俺はもう完全に、自分の思いを自覚している。
本当は在学中に気付くべきであった。
3年間片思いしていた相手に告白さえできないまま失恋したというのに、何故さほど落胆せずに済んだのか。
何度も繰り返される詩織先輩の無茶振りに辟易しながらも、どうして本気で怒り、拒絶しなかったのか。
それどころか先輩が卒業した後、何だかとても物足りなく、何かをやり残したような気持ちになったのか。
ヒントはすでにたくさん提示されていたのだから。
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