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「俺はスパルタだから」
そう宣言していた通り、嘉瀬くんの指導は中々厳しかった。
「ちょっと、下地もファンデも"五点置き"って言ってるじゃん! そんなべちゃっとやっちゃダメだって……あーもーだから、小鼻横は崩れやすいから出来るだけ薄くって……」
場所は嘉瀬くんのバイト先である喫茶店。席は決まって、窓側一番奥のソファー席。
前髪をピンで固定した私の対面に座る嘉瀬くんは、上体を机上に乗り上げて私の失敗を直してくれる。
不器用なうえに覚えの悪い私は、何度も何度も間違えた。
(きっとすぐに呆れられて、やめたって言われるだろうな)
そう予想立てていたけれど、嘉瀬くんは文句を言いながらも「ほら、頑張って」と投げ出すことはなかった。
「……こんな感じで、どうでしょう」
「……うん、まあ、ギリ及第点かな」
(ものすごく不満そう!)
眉間に皺を刻んだ嘉瀬くんが、渋々頷く。
そして立ち上がったかと思うと、私の隣に移動してきた。
「じゃ、ここからは俺の番ね。……目、瞑って」
導くような優しい声に、私はそっと目を閉じた。
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