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ひんやりした感覚が目元を覆う。メイク落としシートだ。
やっとのことで完成させたのに、と勿体なく思わないでもないが、今の私は嘉瀬くんの"練習台"だから、黙って終わるのを待つ。
ミスト化粧水が数度ふられ、嘉瀬くんの掌が馴染ませるように肌をなぞる。
優しい手つきが、ちょっとだけ恥ずかしい。
「んー……こっち試してみようかな。目元はコレっと」
呟きながら机上にコスメを並べていく、真剣な双眸。
その瞳はキラキラと上機嫌を映している。
"練習台"を手に入れたのが、そんなに嬉しいのだろうか。
「……私じゃなくても、ファンの子たちなら喜んで協力してくれたんじゃない?」
言外にどうしてこれまで頼まなかったのかと滲ませると、嘉瀬くんは嫌そうに顔を歪めた。
「あーゆーウルサイのが嫌だから、わざわざ隣駅のこんなくたびれた喫茶店でバイトしてんの。……先輩なら、俺がここでバイトしてるって誰にも言わないでしょ」
(……なるほど)
カウンター奥から「くたびれた、じゃなくて味があるな」と訂正するマスターに苦笑を返しながら、納得する。
確かにこの喫茶店は、所謂"純喫茶"の雰囲気が濃い。
女子高生が通うような華やかさはないし、そもそも、"不愛想王子"の嘉瀬くんが接客業をしているなんて、夢にも思わないだろう。
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