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(……しつれん)
理解した途端、目奥がじわりと熱を持って、涙が浮かんできた。
力が抜ける。
ぎゅうと締め付ける心臓に息苦しさを覚えて、私は鞄に縋りながらその場に蹲った。
(……このまま消えちゃいたい)
砕けて、粉々になってしまえば、余計な感情も綺麗さっぱり消えてくれるのに。
「……ねえ、邪魔なんだけど」
「!?」
突然、上部から届いた怪訝な声に、私は顔を跳ね上げた。
黒髪の、カッコいいというよりは綺麗という言葉が似合う青年が、無表情のままじっと私を見下ろしている。
「え、と……」
なんか、見たことあるような……?
狼狽する私から視線を外した彼は、ゆるりと首を動かし路地の先を見遣った。
「織部先輩じゃん。三年の」
「! 知ってるの?」
「有名じゃん、あの人。絵画コンクールの受賞常連だとかで、賞取る度にでかでかと校門に名前貼られてるし。隣の、彼女?」
「私が聞きたいよ……」
忘れかけていた胸の痛みがまた戻ってきて、私は力なく頭を垂れた。
刹那、ハタと思い出す。
「あ……そうだ、嘉瀬くんだ! 一年生の、嘉瀬悠斗!」
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