先送り

3/4
1524人が本棚に入れています
本棚に追加
/881ページ
マラッカ家は、成功すれば貸しが出来て発言力が増します。しかし、失敗した場合を考えていたのかは分かりません。 欲に取りつかれた人間は成功することしか考えないと言いますし、考えていなかったのでしょうね。 「ユーリ嬢、それでは参りましょう。国までご案内します」 クラマ殿下の左腕が自然に私の腰に回され引き寄せられました。近くなった笑顔が眩しいです。 「クラマ殿下、ユーリちゃんは我が国の王族。国外へ出す気はありませんよ」 「貴国の王子は婚約を解消したと聞きました。ならば、私の許嫁である彼女を国へと連れ帰る事に何の支障がありましょう?」 王妃様もクラマ殿下も、見事な笑顔を見せています。しかし、周囲には吹雪が幻視出来る程冷たい空気が流れています。 「王子との婚約は破棄されても、王族である事は変わりませんわ」 「貴国では、王族を多人数で取り囲み、剣で傷つける風習があるのですか。中々にワイルドなお国柄ですなぁ」 クラマ殿下、さっきまで私にモフられていた時の面影がありません。完全に政治家の顔になっています。 「殿下、ユーリ様への執着が強いから。うちの王城では有名なんですけどね」 モフり甲斐のありそうな白虎獣人の兵士さんが説明してくれました。 「このモフモフは……以前王都に住んでいた白虎さんですね?」     
/881ページ

最初のコメントを投稿しよう!