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しかしその途端紘は血相を変え、酷く乱暴に少女を突き飛ばした。
少女は床に尻餅をつき、衝撃で痛めた腰を抑え小さく呻く。
な、なんなんだこいつは…!
いきなり、なんで抱きついて…!?
紘は全身に鳥肌を立たせ、荒い呼吸を整えつつ少女を更に警戒する。
少女はゆっくりと立ち上がると、スカートについた埃を軽く払い、す、と紘を真っ直ぐに捉えた。
その瞳は、あの時と同じ無気質なモノ。
一気にゾゾゾ、と悪寒が走る。
殺される。
間違いなく、そう悟った。
しかし紘の直感を裏切り、少女は直ぐににこりと微笑み、甘い声でこう告げた。
「急にごめん。驚いたよね」
紘は拍子抜け、思わずへ…?と声を漏らす。
少女は更に続けた。
「わけわかんないんだよね。そうだよね、うん。分かった。全部教えてあげる」
その言い回しには、自身に確かめるような雰囲気が含まれている。
全部…教える。
こいつは、一体誰なんだ?
何の目的でこんなことをする?
なぜ俺を知っている?
ここはどこなんだ?
疑問は挙げればきりがなかったが、一つも質問として言葉には出来なかった。
紘は押し黙り、少女の言葉を待つ。
少女は暫し間を空け、話を切り出し始める。
「まず、一番知りたいだろうから、先に言っておくね。どうして、あの人たちを殺して、紘はここにいるのか」
"あの人たち"
良太や健介…あと多分、他にいた三人もこいつが……。
紘は固唾をのみ続きを待つ。
「それは、わたしが紘を愛してるから。ううん、ずっと愛してきたから」
突拍子のない答え。
全く理解不能だ。
紘は眉間に皺を寄せ訝しがるが、その真意を問い質すことは出来ず少女を見上げた。
その動作にはクスリ、とした笑みが返される。
少女は部屋の中をゆっくり歩き回りながら話を継いだ。
「紘は、わたしのこと忘れてるんだよね?誰だかわかんないんだよね?でも…わたしは覚えてる。ずっと紘を探していたの。今までね、何度も紘に似た人を間違えて連れてきちゃったりしてたんだ。ごめんね。本当の紘はこんなに素敵なのに」
"似た人を間違えて連れてきた"
"何度も"
その言葉から連想されるのはただ一つ。
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