本編

19/30
前へ
/30ページ
次へ
有村くんやさしいもんね。わかってるよ。 大丈夫。 わたしはずっと有村くんが大好きだから。 だから有村……紘も、わたしのこと好きになってくれたらうれしいな。 愛して……ほしいな。 七人は懐中電灯を頼りに、山の中を歩いた。 暗い上、木の根や枯れ葉、石などにより足場が悪いため、子供たちの体力は急激に奪われていく。 息を切らした紘たちは、目的とは異なるが山の中央休憩地点で足を止めることに。 直ぐに純子を除いた六人は輪を作る。 「どうする?ここでやめとく?」 「頂上までいかないと意味ないだろ」 「でも、そうしたらぼくたちまで帰れなくなるよ」 「ねぇ、もうこの辺でいいんじゃない?」 皆が口々に意見をぶつけ合う中、紘はパン、と手を叩き口論を鎮める。 「どうするかは、俺が決める」 堂々とした物言いに、皆は黙って従った。 それから暫く休憩した後、七人は再び頂上を目指し出発する。 肝試し、と言うわりに皆怖がった様子はないな、と純子は不可思議に感じたが、口には出さず後をついていった。 不意に紘が純子を振り返り、皆も足を止める。 「神谷。お前、前にこい」 純子は名を呼ばれ一瞬びくっと震えて、紘を見上げる。 「ど、どうして?」 不安がる純子に、紘は意地悪く笑み、高圧的な態度でこう告げた。 「お前、俺が好きなんだろ?だったら俺の前を歩け。その方がうれしいだろ」 言い切った紘の瞳は、冷淡で、純子にはそれが本心ではないと充分に理解出来ていた。 それでも、紘の傍にいけるなら、と多少物言いに不満は感じたものの、純子は無邪気な笑顔で大きく頷く。 「うんっ。わたし、前にいく」 若干頬を赤らめながら颯爽と有紗たちの間を通り抜け、紘の前へ。 その間、場にいた全員が黒い感情を胸に抱いた。 気持ちわる。 なんで喜んでるんだ? ふつう、怒るだろ。 どれだけ有村くんのことが好きなの? まじきもい。死ねばいいのに。 そんなことも知らず、純子は先頭に立つとにこりと紘に笑いかける。 内心気味が悪い、と引いてしまったが必死に笑顔を取り繕い、紘は先を歩くよう促す。 純子を先頭に、七人は登山を続けた。 うれしい。 紘が、わたしに話しかけてくれた。笑いかけてくれた。 うれしい。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加