本編

20/30
前へ
/30ページ
次へ
紘のすぐ近くにいる。紘が後ろにいる。 うれしい。 振り返ればそこに紘が。振り返れば…… ちら、と紘を振り返った純子は驚愕し、一瞬頭が真っ白になる。 背後には、誰もいなかったのだ。 いや、正しくは皆消えてしまったのだ。 純子を一人残し、後の六人は姿を消していた。 在るのは、深い闇と冷たく吹き抜ける風だけ。 沈黙。 突然に、恐怖が襲い掛かってくる。 一人、闇の中取り残された。 誰も、いない。 自分だけ。一人だけ。 ざあっと風が木々を揺らし、より一層不気味な色を濃くする。 純子は身を小刻みに震わせ、辺りを必死に見回す。 みんなは?どこ? 誰か…誰かいないの…!? と、その時。懐中電灯の呼吸が荒くなる。 灯りは点滅を何度か繰り返し、やがて息絶えた。 僅かな光が、希望が消えた途端、ぶわっと体中に冷や汗が浮かぶ。 純子は焦りと恐怖で半泣き錯乱状態に陥り、電池の切れた懐中電灯をバンバンと叩く。 しかし、灯りは灯らない。 再び木々がざわめく。 ざあああぁ。がさがさがさ。 そんな雑音の隙間、微かに少女のクスクスという笑い声が聞こえてきた。 誰か、いる。そこにいる! 純子は縋るように声へ向かって走り出す。 「ま、まって……みんな、そこに………っきゃあ!?」 視界は黒。 木の根に足を取られ、落ち葉だまりに突っ込む。 顔も服も泥だらけに。全身に痛みが走るが、それでも構わず直ぐに立ち上がる。 みんなわたしがはぐれたことに気づいてないんだ。早くもどらないと! 再び声を掛けようとした純子を遮り、何処からか紘の声が。 「バッカじゃねーの、お前」 純子は慌てて声のした方向を向く。 すると、今度は背後から有紗の声。 「普通気づくでしょ。だまされてるって」 「え……?」 混乱し、思考が停止する。 しかし純子の戸惑いなどお構いなく闇の中から声が飛び交う。 「気持ちわりぃーんだよ、ブスが」 「いじめから解放された、とでも思った?」 「一人でかわいそうね」 「あんたなんか誰も仲間に入れたりしないわよ」 「さっさと消えろよ」 「笑い顔とかちょーキモイんですけどー」 「きゃははははっ!」 頭の中で、罵倒の言葉たちが巡る。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加