本編

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すぐにリモコンを手に取り、放送されている番組を毎朝お馴染みのニュース番組へと変える。 そのチャンネルが映し出したのは、とある少女の顔写真と、上空から映したとある小さな山。 恐らくヘリからの映像だろう。 女性のニュースキャスターの声が報道内容を告げる。 「ご覧ください。こちらが、昨夜少女が伊藤容疑者に刃物で襲われた黒岩山です。黒岩山は少女の自宅から800メートル程離れた距離ですが、なぜ彼女が山へ立ち入ったのか、理由は定かではありません。そして……」 流れる音も、その内容も、通常通り紘の耳には届いていない。 ニュース番組など、紘にとってはどうでもいいのだ。 誰が殺され、捕まり、泣いていようと自分には関係がない。 そう。関係などないのだ。 しかし、紘の無関心も和泉の一言によって簡単に破壊されてしまう。 「………ん?……ちょっと、この襲われた女の子って紘と同じ学校の子じゃない。たしかクラスメートじゃなかった?」 和泉に声を掛けられ、紘はちら、とテレビに視線を移す。 そして、自分の目を疑った。 画面右上に、神谷 純子の顔写真があったのだ。 その横のテロップには、"伊藤容疑者に襲われた少女 神谷純子ちゃん"と表示されている。 映像は山から、近所の白井病院へ移り変わった。 ニュースキャスターが報道を続ける。 「えー。現在純子ちゃんは、こちらの白井病院で治療を受けています。非常に重傷で、集中治療室で手術中とのことです」 「大丈夫かしら…。集中治療室ってことは、死ぬかもしれないのよね」 その後もニュースは続いたが、驚愕し頭が真っ白な紘の耳には何も入ってこなかった。 教室は今朝のニュースの話題で溢れ返っていた。 紘が登校すると、即座に昨夜の実行メンバーが集合する。 その内の一人、太一が物憂げな様子で紘に問う。 「…ねぇ、神谷のこと…しってる?」 紘はゆっくりと頷いた。 数人から溜め息が漏れる。 「ニュース…見たんだな、みんなも」 五人はそれぞれ頷き、有紗が口を開く。 「クラスのみんなもしってる」 紘はちら、と振り返る。 数人は対談に夢中になっているが、殆どの生徒の視線は実行メンバーに集まっていた。 再び前に向き直り、紘は沈黙する。
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