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紘は少女の反応に息を呑み、震える声で確認のため再びその名を呼んだ。
「……神谷…なのか?神谷…純子…?」
名を呼ばれる度に少女は瞳を爛々と輝かせ、最後に大きく頷いた。
紘は戦慄し口をつぐむ。
予想が、当たってしまった。本当にアイツだった。
あの時虐めていた神谷純子だった。
アイツが、死んで、復讐しに来たんだ。
俺を殺すために、幽霊になって!
紘は腰を抜かし、尻餅をつく。
動けない。体が全く言うことを聞かなかった。
少女は紘の怯え様も気にせず、にこりと笑みを浮かべる。
「嬉しい。やっと思い出してくれたんだね」
はにかむ少女──もとい、神谷純子の表情に紘はハッと気付く。
違和感だ。
何かが、違う。決定的な何かが。
純子のはにかむ様子は見覚えがある。昔もよくこうして笑んでいた。
しかし、何かが違う。
こんな顔をして、笑っていただろうか?
そう。こんなかわいらしい顔で──…。
突然、紘の頭の中で何かが弾けた。
違和感の正体が分かったのだ。
なぜこんなことに気付かなかったのだろう?
そもそもコイツは、別人ではないか。
アイツは死んだ。神谷は死んだんだ。
幽霊なんている筈がない。
少し冷静になって考えれば、こんな答…直ぐに浮かぶ。
紘はゆっくりと立ち上がり、純子を怯えの混じった瞳で睨み付ける。
「……お前は、神谷じゃない」
静かに言い放った。
純子は全く何の反応もせず、ただ黙って紘を見つめ返す。
沈黙。
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