本編

25/30
前へ
/30ページ
次へ
紘は少女の反応に息を呑み、震える声で確認のため再びその名を呼んだ。 「……神谷…なのか?神谷…純子…?」 名を呼ばれる度に少女は瞳を爛々と輝かせ、最後に大きく頷いた。 紘は戦慄し口をつぐむ。 予想が、当たってしまった。本当にアイツだった。 あの時虐めていた神谷純子だった。 アイツが、死んで、復讐しに来たんだ。 俺を殺すために、幽霊になって! 紘は腰を抜かし、尻餅をつく。 動けない。体が全く言うことを聞かなかった。 少女は紘の怯え様も気にせず、にこりと笑みを浮かべる。 「嬉しい。やっと思い出してくれたんだね」 はにかむ少女──もとい、神谷純子の表情に紘はハッと気付く。 違和感だ。 何かが、違う。決定的な何かが。 純子のはにかむ様子は見覚えがある。昔もよくこうして笑んでいた。 しかし、何かが違う。 こんな顔をして、笑っていただろうか? そう。こんなかわいらしい顔で──…。 突然、紘の頭の中で何かが弾けた。 違和感の正体が分かったのだ。 なぜこんなことに気付かなかったのだろう? そもそもコイツは、別人ではないか。 アイツは死んだ。神谷は死んだんだ。 幽霊なんている筈がない。 少し冷静になって考えれば、こんな答…直ぐに浮かぶ。 紘はゆっくりと立ち上がり、純子を怯えの混じった瞳で睨み付ける。 「……お前は、神谷じゃない」 静かに言い放った。 純子は全く何の反応もせず、ただ黙って紘を見つめ返す。 沈黙。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加