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しぃん、と静まり返った部屋の中、ただ紘の激しく脈打つ鼓動音だけが響いていた。
純子は更に一歩歩み寄ると、そっと紘の左胸に触れる。
「さっきから…ドキドキしてるね。わたしもだよ。同じ。紘も、わたしに会えて嬉しいの?」
はにかみ、自分を見上げる純子。
しかしこれは、純子ではない。
紘は乱暴に純子の手を振り払い、後退る。
一刻も早くここから脱出したいが、生憎ドアは反対方向。
強行突破は可能だが、純子が何を隠し持っているか不明な分、迂闊には動けない。
紘は唇を噛み締め、再び純子に向き直る。
先程より強めの声で、もう一度繰り返す。
「お前は神谷じゃない」
それでも目の前の少女は無気質な表情をするだけで、肯定も否定もしない。
ただ、紘を見つめる。
その雰囲気に耐えきれず紘の方から目を逸らし、荒々しい口調でそう考えた理由を口に出していく。
「…だ、だってそうだろ?神谷は……アイツは、もう死んだんだ。あの日……死んだ。だからここにいるはずがない!それに、お前……神谷と……顔が、違うだろ…」
確かに、そうなのだ。
紘の記憶に在る神谷 純子と、現在目の前に居る少女とは、明らかに顔が違う。
全くの別人なのだ。
艶やかで手入れの行き届いた黒髪。
細く整った眉。
鼻筋の綺麗な鼻。
ぱっちりとした二重に大きな瞳。
あの神谷純子とは到底似ても似つかぬ顔立ちをしている。
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