0人が本棚に入れています
本棚に追加
「ったく、どいつもこいつも変に騒ぎやがって…。大体どうやったらさらわれんだよ?幼稚園児じゃねぇんだぞ」
家路につく中、未だ紘は不機嫌な様子で愚痴を零していた。
その場は路地裏。
全く人気が無く、紘の靴音と声だけが反響している。
この道を通る者を見たことは数少ない。
現在も、確認出来るのは紘一人の姿。
だったのだが…。
「誘拐できんならしてみろっつーんだ…… ?」
言いかけて、背後に人の気配を感じ、振り返る。
しかしそこにはただ狭い道が続くだけで、人影は、無い。
にも関わらず、確かに存在が在る。感じる。
暫く振り返った状態でその正体を確認しようと見張ってはいたが、一向に姿を現さないので、勘違いだと思い直し、再び歩みを進めた。
しかし、その時だ。
微かにコツ、という靴底が地面を蹴る音が一つ。
反射的に紘は再び振り返る。
やはり人影は、無い。
だが確かに音がした。足音が。
……誰かが、いる。
しかも自分に気づかれまいと、姿を隠して。息を顰めて。
じぃ、っと誰かが、何処からか、自分のことを見ている。
その時、一瞬今朝の言葉たちが脳裏を過ぎった。
"また、誘拐事件が起こりました。しかも、この学校の近くです"
"一人で平気か?ほら、例の誘拐事件の…"
"誘拐"
"男子生徒誘拐事件"
その瞬間、体中を虫が這う感覚に襲われ、思わず身を竦める。
まさか、隠れているのがその誘拐犯だってのか?
バカか、俺は!
最初のコメントを投稿しよう!