本編

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「ったく、どいつもこいつも変に騒ぎやがって…。大体どうやったらさらわれんだよ?幼稚園児じゃねぇんだぞ」 家路につく中、未だ紘は不機嫌な様子で愚痴を零していた。 その場は路地裏。 全く人気が無く、紘の靴音と声だけが反響している。 この道を通る者を見たことは数少ない。 現在も、確認出来るのは紘一人の姿。 だったのだが…。 「誘拐できんならしてみろっつーんだ…… ?」 言いかけて、背後に人の気配を感じ、振り返る。 しかしそこにはただ狭い道が続くだけで、人影は、無い。 にも関わらず、確かに存在が在る。感じる。 暫く振り返った状態でその正体を確認しようと見張ってはいたが、一向に姿を現さないので、勘違いだと思い直し、再び歩みを進めた。 しかし、その時だ。 微かにコツ、という靴底が地面を蹴る音が一つ。 反射的に紘は再び振り返る。 やはり人影は、無い。 だが確かに音がした。足音が。 ……誰かが、いる。 しかも自分に気づかれまいと、姿を隠して。息を顰めて。 じぃ、っと誰かが、何処からか、自分のことを見ている。 その時、一瞬今朝の言葉たちが脳裏を過ぎった。 "また、誘拐事件が起こりました。しかも、この学校の近くです" "一人で平気か?ほら、例の誘拐事件の…" "誘拐" "男子生徒誘拐事件" その瞬間、体中を虫が這う感覚に襲われ、思わず身を竦める。 まさか、隠れているのがその誘拐犯だってのか? バカか、俺は!
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