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散々否定しておいて、無関係だって拒否しておいて、ビビッてる…?
んなわけあるか!ちげーよ。犯人じゃねぇ。
ビビッてなんかねぇよ!
紘は平然を装い、再び前に向き直り歩を進める。
コツ、コツ、コツ、コツ。
静寂の中に、一つ。
地面を蹴る靴音。
紘の動きに合わせて、同時に、コツ、コツ、コツ。
首筋に、一筋の冷や汗が流れ落ちる。
頭では否定していても、紘は全身を恐怖で支配されていた。
もしかしたら、誘拐犯につけられている、誘拐され、殺されるかもしれない。
そんな不安が、恐怖が重くのしかかり、焦るように早足に。
しかしそれでも気配はついてくる。
コツ、コツ、コツ。
足音は、一つ。
「……っう……、うわあああああ!!」
堪らなくなった紘は、血相を変え、恐怖に声を上げて駆けだした。
ただ、走る。
目指すは本道。
後ろは振り返らない。振り返れない。
ただ、先へ先へ駆けた。
この路地裏を抜ければ、気配は追ってこれないはず。
早く、本道へ───…。
「はぁっ……はぁ、はぁっ…」
紘は本道に出たにも関わらず、走り続けた。
早く遠くへ、早く家へ。
早く気配が消える場所へ。
早く。早く!
翌日の夕刻。
普段なら放課後になると直ぐに帰宅する紘の姿が、未だ教室に在った。
席についたまま、何かを躊躇している様子だ。
と、紘の横を良太を含む数人の男子生徒が通りかかった瞬間、紘は慌てて立ち上がる。
「お、おい…っ」
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