本編

6/30
前へ
/30ページ
次へ
「? どうした、紘」 声を掛けられ、全員が足を止める。 良太の問いに、暫し逡巡すると、言い辛そうに切り出した。 「あの、さ…。俺も…一緒に帰っていいか?」 ------ 昨日と同じ、帰宅路の路地裏。 気配を感じた、場所。 しかし今日は紘一人ではなく、良太ら五人の姿もある。 結局、昨日の恐怖に怯えている紘は、安全のため集団下校に加わることを決意したのだった。 こんだけ数がいれば、手は出せないだろ。 紘は周りを囲まれていることに、この時間だけは酷く安堵した。 「しっかし…。急にどうしたんだ?昨日まであんな嫌がってたのに」 良太の純粋な問いに、紘はただ曖昧に返事を返す。 「ああ…。まぁ、その…なんだ。気分転換…みたいな」 「はあ?気分転換?」 「ど、どうだっていいだろ」 深く追求されない内に話を切り上げたい紘は、さっと前に向き直ると、少し良太から距離をとった。 良太は暫し黙って紘の後ろ姿を見つめ、心情を理解したのか、口元に笑みを浮かべる。 「もしかして紘くんはぁ、怖いのかなぁー?」 「は、はあ!?」 図星を突かれたは、つい声を裏返らせ良太を振り返る。 五人の視線が紘に集まり、その内の一人、健介が口を開いた。 「怖い、って…何が?」 「な、なんでもねーよっ」 事を荒立てまいと誤魔化すが、再び良太によって紘の心情が明かされる。 「紘はさ、なんだかんだ言って誘拐事件のこと気になってんだって。平気なフリしてたけど、やっぱ怖いんだってさ」 「お、おい良太!」 良太の茶化す様に軽快な口振りとその内容に、健介たちはケラケラと笑い声を上げた。 紘は苛立ちを噛み締める。 コイツらは知らないから、笑えるんだ。実際に体験してたら…。 ……。そういえば、昨日ストーカーされてたのに気づいたのって、この辺だよな…。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加