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五人が笑い声を上げる中、紘はゆっくりと青ざめた表情で振り返った。
気配は……無い。と、思う。
こうも人数がいては判断仕切れないが、そう思いたかった。
一人だけ顔面蒼白な紘の様子に、良太は笑うのを止め声をかける。
「どうした?」
「………。」
紘は暫し逡巡し、決意すると昨日の気配について話し始めた。
「それって…ストーカーってこと!?」
健介が驚愕し、辺りを忙しなく見回す。
他の三人もつられて同じ行動をとる。
しかし良太だけはそのストーカーにある可能性を疑っていた。
「それって……、もしかしたら例の誘拐事件と関係あるかもしれないんだよな…?」
その瞬間、場にいた全員の表情が凍り付いた。
辺りは、しぃんと静まり返る。
皆が顔を見合わせるが、誰も言葉を発さない。
冷や汗だけが流れ落ちた。
「───っだ、だったらさ!こんなとこ早く抜けようよ!」
沈黙を破り、焦るように健介が声を荒げる。
固まっていた紘たちはああ、そうだな。と健介の意見に同意し、早足に歩き出した。
先程まで騒いでいたと言うのに、今では誰も喋らない。
ただ、無言で本道を目指す。
足音だけが、響いて反響している。
なんだよこれ…。コイツらがいても同じ状況じゃねぇか。
なんでコイツらがいても不安なんだよ…。
つうか、まだ誘拐犯だって決まったわけじゃねぇし、俺をつけてたかどうかも…。
大丈夫……だよな。犯人なんかじゃ、ないよな。狙われてるわけじゃ…ない…よな。
様々な不安に焦る中、それでも紘は、後ろを振り返った。
気配を感じたわけではないが、なんとなく、確認のためそうしたのだ。
しかし、それが全てを狂わせる引き金となってしまった。
いや、遅かれ早かれ、引き金は引かれたのかもしれないが。
「……あれ……。おい、アイツらは?」
紘の言葉に良太と健介は同様に振り返り、足を止める。
先程まで後ろにいた三人の姿は、消えていた。
気づかない内に、忽然と、姿を消してしまったのだ。
「え…。お、おい…どういうことだよ」
良太の表情が引き攣る。
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