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「何隠れてんだよ。冗談はやめろって!」
返事は、ない。
三人の姿も、気配もない。
今にも泣き出しそうに顔を歪め、健介は最も否定したい最悪的可能性を口に出す。
「まさか…、さらわれたんじゃ…!?」
「んなバカなことあるか!三人もだぞ、どうやって連れてくんだよ!?」
「だ、だって…他に考えられないし」
「どうせ隠れて笑ってんだよ。おい、出てこいって!」
健介と良太の二人が口論しているその隙間に、僅かだがコツ、という足音が聞こえてくる。
紘は聞き覚えのあるその音に表情を強ばらせた。
一瞬にして、昨日の恐怖が蘇る。
コツ、コツ、コツ。
足音は音を増し、近付いてくる。
それに比例して、紘の恐怖心や焦りも膨らんでいく。
良太も健介も、互いの口論に夢中で足音や紘の変化には気付いていない。
コツ、コツ、コツ。
音は間違いなく、路地裏の、紘の視線の先から発せられている。
にも関わらず、その正体は一向に姿を現さない。
コツ、コツ、コツ。
逃げなければ、早く二人に告げなければ、と思えば思う程に体は縛られたように動かなくなり、声は嗄れたように発せなくなってしまう。
必死に口をパクパクさせ、二人に訴えるが、全く伝わらない。気づいては貰えない。
紘はただ一人、迫り来る恐怖と戦っていた。
コツ、コツ、コツ。
足音が、また近くなる。
「……っ……ぁ……」
「──ん?」
ここで漸く、良太が紘に目を向けた。
尋常ではない紘の怯え様に二人は驚愕し、口々に声を掛ける。
「どうしたんだよ、紘」
「どうしたの…なに…?」
「紘…。おい、紘!」
「やだ、なに…?どうしちゃったの!?」
音が、近づく。
コツ、コツ、コツ。
「に、…逃げなきゃ…」
「逃げる…?」
「っそうだよ!早くここから─── !」
言いかけて、口を噤む。
一瞬にして、恐怖が緊張へと変わった。
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