四羽鴉の葵

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四羽鴉の葵

とある冬の日寒空の下今日も吉祥寺にて 俺は客引きをしてる訳だが・・・。 ふぅ~ 思わずそんな溜息混じりの吐息を漏らしてしまった。 今日は客足が芳しく無い。 19時から現在23時迄にまだフリーのお客様に至ってはたった今フロントに引き渡した3名を含めて5組7名しか入れてないからだ。 一先ず気持ちを落ち着かそうとタバコに火を付け煙を吐き出すと二階にある店内に続く階段を降りる革靴の音が聞こえ其方に目を向ける 『葵さん!!こんな日によく引いてこれますねー!マジすごいです』 3名を案内して戻ってきた フロント係の保田 智紀 (やすだ ともき)19歳 通称ヤスに声をかけられた。 ヤスは主にフロントと言われる 俺がビラから引いた客や指名客や常連等の 目指し客を店前から店内に案内する役割で 謂わば店の顔である。 身長も180センチと高く脚もスラと長く 端整な顔立で爽やかで誰に対しても対応が 丁寧で非の打ち所がない好青年だ。 『やめてくれやめてくれーなんか慰められてるみたいで惨めな気持ちになるぞーい』 少し気怠そうに答える 『いやいや自分なんかがビラに出たら玉砕ですよ』 『まぁ終電前にもう少し引けるように頑張ってくるわ』 『はい!お願いします!自分も頑張ります!』 ヤスの歯切れの良い答えに清々しい気持ちになり思わず『ふっ』と吹き出す 階段横に置いてある灰皿にタバコを押し付け 火を消しフロントを後に少し足速にとビラ通りに戻った。 今日は1分1秒も無駄には出来ない 何故なら天気予報ではもうそろそろ雪が降ってくる頃合いだからだ。 ビラ通りに戻ると先程よりさらに客入り絶望的な人通りで過疎状態な光景が広がっていた。 各店舗の客引達が寒さも相まって険しい表情で項垂れてる。 その中でも一際項垂れ 今にも泣きそうな表情で 1人の坊主頭のチビがトボトボ歩きながら俺の所に近寄って来る 『ししょ~ぅ今日も俺ダメかもっす』 決して弟子は採ったつもりは無いが 俺の事を師匠と慕うこの坊主頭の男は 田渕 京介 (たぶち きょうすけ) 年齢は俺とタメで身長は162センチ 円らな瞳 で その仔犬や赤子の如く愛くるしいキャラで 同業の中でもみんなに愛されている。 『どーしたどーしたーそんな顔するもんじゃねーぞ』どうせ何時もの事だろうと察知して 呆れた表情で訪ねた。 『このままだとタコっちゃいます』
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