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京介が情けない声でこの台詞を吐いた瞬間。先程迄険しい表情だった周囲の客引き達からドッと笑いが起きこんなヤジが飛んでくる
『ヨ!さすが京タコ!』
《京タコ》これが田淵京介という男の
不名誉な通り名
タコとは1組もフリーのお客を案内出来ない時に使う客引きを揶揄した用語で、この京介は毎週2~3回はタコっている。
それと、坊主頭の見た目も相まってこの通り名となった。因みに1組しか引けない事をイカと呼んだりする。
兎に角客引きの才能が
全くと言っていい程無い。
このやり取りも日常茶飯事の
お決まりみたいな光景である。
一応俺も師匠と慕われてる事もあって
客引きのコツというか基礎的な事は幾度となく教えて来たが、当然ながら対人間を相手する職業でマニュアルなんてものはあって無いようなものである。
客引きのスタイルも人それぞれ
人の真似して引けるとは限らない。
如何に自分のスタイルを確立して
注目を惹き付け交渉の際に
お客様の心理を読むかに限る。
要するに才能の部分が大きい。
俺は呆れながらもこう伝える
『わ~たわ~た!さっき案内した客が2件目セクキャバ紹介してくれと言ってたから、お前に紹介して受け渡すよ』
『さっすが師匠!助かります』京介が目を輝かせて俺を拝み始めた。
ため息を吐きながら俺は京介に問う
『今日明日は系列店のセクキャバが
大雪になるの見通して休みにしたから
別に俺は構わねぇけど、お前はそれでいいのかよ?自分で引いてやろうていう気迫や意気込みみたいなもんねーんか?』
京介の方に目をやると俯きながら
『でも...今日タコったらまた...。』
何かを言いかけたが言葉を呑み込みそれ以上何も応答が無くなった。
明らかに京介は人に言えないなにか大きな問題を抱えていると俺はここ数週間前くらいからその内容も大凡察しがついてる。
その事に気付いたのは店休前の営業終了後に
俺と京介の2人で朝~昼まで飲み明かし定例行事の酔い覚ましに【銭湯よろづや】に行った時の事だった。
脱衣所で何気無く
まだ酔いの醒めてないフラフラした状態の
京介が心配になり目をやると
ワイシャツを脱いだ身体中から夥しい数の痣が顔を覗かせて、俺の酔いは一気に醒め目を丸くして驚愕した。
『おっ..お前!その痣どうした!?』
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