商人タニの流儀

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Step4 潜入調査 いよいよオレっちの仕事も佳境。 お待ちかねの本丸に乗り込む! 普段はプライベートでも 仕事着のスーツしかあまり着ないが 捜査とはいえ今日は【ライオネス】で 女の子と呑むから紳士の嗜みで オシャレしてバッチリ決めてきたぜ! 谷屋は新妻と約束を交わした 3日後に携帯が鳴るのを 片桐の縄張りの付近にある ファミレスで待機して待ち構えていた。 普段と同じく頭髪はオールバック。 黒縁眼鏡の代わりに昭和の刑事ドラマなどで 刑事(デカ)が掛けてそうなグラサン。 茶色の色味のネルシャツに サイズ感の合ってない細みのジーンズに 茶色い革のブーツ そして品の無い金色の時計。 彼にはファッションセンスが 壊滅的に無かったのである。 その姿はお世辞にもオシャレとは呼べず 結果胡散臭さがより一層増していた。 谷屋の携帯が震える。 セイジ 『パイセ〜ン今ならマムシ居ないすよ♪』 タニ『あいよ。今いく!』 谷屋はファミレスの会計を終え。 足速に新妻の元に向かった。 セイジ 『パイセ〜ンその格好ギャグすか?笑』 ん!?コイツは何言ってんだ?? ははーんさては 普段よりイケ過ぎててビビったのか。 ・・しかも、無自覚である。 周囲に居た他店の客引きも クスクスと谷屋の姿を観て笑っている。 タニ『そんな事より早く!』 セイジ 『へいへ〜いわかりやしたよ〜』 新妻は慣れた手付きで無線機(インカム)の ※チャンネルを【ライオネス】のものに変える セイジ『店内店内とれますかー?』 そうマイクを通して発し少し間が空く。 セイジ 『フリー1名様7込みで向かいまーす♪』 【ライオネス】の通常料金は TAX込みで8000円なのだが 予め7000円に値引きする様に頼んでおいた。 本来なら6000円にしたかったが 同業としての見栄もあるが プロファイリングした女性像を いち早く見つけ出したかったからである。 セイジと並行し少し歩き 【ライオネス】の店前に着く。 キャバクラ店舗等が各階に入った。 雑居ビルの3階に店はある。 セイジ 『ちーす♪お客様は在籍して新し目の娘で 天然ぽいのが好みみたいだからよろしく〜♪』 セイジに焼肉屋で伝えた通り フロントの人間に引き渡される。 『はい!かしこまりました!』 そう初々しい返事をし フロントを任されてたのは 見覚えの無い若い顔だった。 きっと新人君だ! これはこれとない好都合だわさ! 相手も恐らくオレっちの存在を 把握して無く同業者とも認識してないだろう。 変に勘ぐられる事も 警戒され身構えられる事もなかろう。 やはり臣道が休みの日を狙ったのは 大正解だったわさ。 しかしながら臣道が休みだとはいえ 新人にフロントを任せるという事は 店内が大忙しの満員御礼状態かもしれない という懸念も谷屋にはあった。 目当てのあのレス主の嬢が長時間滞在する ような太客に指名されていたら 万事休すであるからである。 そもそもその嬢が出勤してるかも 辞めずに在籍してるかも定かでは無く 谷屋にとって今回の潜入調査は 一種の運任せで賭けに近いものであった。 頼む巡り合わせてくれ! そう心の中で谷屋は神頼みをする。 まだあどけなさの残る若いボーイが インカムで新妻に言われた通りの特徴を 辿々しいながらも店内に伝えている。 セイジ『んじゃオレは戻るからよろしく♪』 そう言い残し新妻は持ち場に帰っていった。 これは余談だが実際別グループの 同業者の来店を お断りする店舗は数多く存在する。 それは勿論1番は嬢の引き抜き防止。 客入り。売り上げ。サービス内容。  等の店の内情を探らせ無い為である。 しかし【トランスグループ】全店舗 来るもの拒まずで同業者の入店OKだ。 基本的に同業者は金払いが良いので 来店拒否しない理由としてあるとは思うが それはまるで 「このグループ相手に粗相を 為出(しで)かかせるもんならやってみな!」  という総帥とも言える 崎山(さきやま) (るい)の強気なメッセージとも受け取れる。 もし何か揉め事に発展する 事があった場合には命の保障無いかもな…。 ……想像しただけでも恐ろしい。 くわばら くわばら。 そんな事を考えていると エレベーターが一階まで降りてきて 新人君と3階まで登りいよいよ本丸の 【ライオネス】の扉が開かれようとしてる。 谷屋はごくりと唾を飲み込んだ。 『お客様ご来店でーす!!』 そう扉を開きながら 深々と頭を下げながら発した 新人君の店内に響き渡る声と共に オレっちは店内に足を踏み入れた。 するとホールから入り口まで ボーイが現れオレっちは 引き渡され、新人君は会釈をして 扉を閉めフロントに戻っていった。 『いらっしゃいませ!お席にご案内します。』 少し落ち着いた声でそう会釈をして 顔を上げ笑顔で谷屋の顔に眼をやる すると少し驚いた表情を浮かべ 谷屋に言葉を投げる。 『なんだ。これは珍しいお客様だなー』 この男は谷屋と年齢も近く 水商売歴も同期とも言える そんな顔馴染みの黒服が呆れながらに言う。 それを聴き谷屋は淡々とした口調で それでいて少し気取りながら カッコつけた態度で言葉を返す。 タニ『安心しろ。キレイに呑むし。 金はちゃんと落とす。今夜は頼むぜ。』 『ふん・・席に案内する』と 少し不服そうにした男の後を着いていき ソファーに深々と腰掛ける。 男からおしぼりを手渡され 料金システムや注意事項を伝えられ いよいよ1人目の女の子とご対面だ! オレっちは京タコの所在と 事の真実の手掛かりが得られるか 不安と期待で胸の鼓動が高鳴っていた。 オレっちはそんな自分を 鼓舞する様に心の中で叫んだ。 さあ!ドンとかかって来やがれー!! ※ チャンネル 無線機の固定された 周波数をチャンネルと呼ぶ 店毎に固定チャンネルを持っており 新店など出店する際はオープンする前に どの店舗にも使われない 空きのチャンネルを回して探す作業を 実際に手探りでインカムのマイクで 「すみませんこのチャンネル 新店の○○ですけど使ってますか?」 という形で確認したりする。
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