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オレっちは逸る気持ちを抑え
冷静になって状況把握の為に
手渡されたおしぼりでワシャワシャと
顔を拭きながら周りに目を向ける。
店内を見渡すと薄暗く
照明や装飾で高級感を演出してある。
間接照明によってライトアップされた
ドレス姿の嬢は美しさや煌びやかが
増してみえるのと
暗い所だと人間の瞳孔は大きく開く
その瞳に見つめられると
人は恋と錯覚したり
落ちやすくなるという習性がある。
そんな心理学や脳医学をも用いた
巧妙なマジックである。
これはホストクラブも然りだが
予め緻密に計算されたものであり
自動延長のガールズバー等は
客席の椅子等にも細部に拘り客が席を
立ちにくくする構造にしてたりもする。
因みに水商売に於いて
時計を飾るという概念は当然無い。
店内はやはり多くの客で賑わっていた。
灰皿交換やオーダーの
対応に追われる黒服が忙しなく動いている。
付け回しに目をやると
どうやら予想通り馬渡が務めているみたいだ。
ピンと姿勢も良く凛としている。
その立ち姿はとてもでは無いが
営業後に偶に居酒屋などで見かける
チンピラ風情の輩と同一人物とは思えない。
今までに接点はあまり無いが
あまり良い印象が無い。
いつも子分の様に他の黒服を引き連れ
高圧的な態度でふんぞり返っている。
それに引き連れてる黒服の人間が
陰口で悪く言ってるのも耳にした事もある。
どうやら人望も薄いみたいだ
まぁ裸の王様て所だわさね。
馬渡の事をオレっちは前日に
モトさんにそれとなく尋ねてみた。
年齢は34歳でこちらも19の頃から
吉祥寺で黒服キャリアを重ねているらしい。
嘸かし自分よりも一回りも下で
キャリアも浅い殿山の出世劇は
鼻持ちならなかったに違いないだわさ。
調査開始当初に此奴の今回の件への関与は
頭に無かったがそれにより
オレっちの中である一つの仮説が浮上した。
『お待たせして申し訳ありませんでした。
こちらランさんです!
ごゆっくり楽しんで下さい!』
その声を聴きふと目をやると
その声の主は馬渡であった。
隣には若いギャル系の
少し気怠るそうに会釈をしてる女が居た。
『…ランで〜す。よろしく。』
おー容姿は悪く無いがなかなか
これは地雷臭のするキャストだわさ(笑)
馬渡はそう紹介すると愛想笑いを浮かべ
そそくさと逃げる様に去ってしまった。
オレっちのこの第一インスピレーション
で感じた地雷臭への嗅覚は当たってしまう。
ラン『おとなりしつれーいしまーす。』
そう無感情に言葉を吐き捨てると
ランがソファーにドカッと
品が無く勢いよくもたれ掛かる。
ランが間髪入れずに話し掛けて来た。
ラン『おじさーん
喉渇いたからなんか飲んでい〜い〜?』
は!?ありえない!
というかおじさんとは聞き捨てならん!
こちとらまだ
キャピキャピの20代前半だわさ!!
接客手順がめちゃくちゃだ!
先ず自己紹介や質問しながら
グラスに卓上のアイスペールから氷を
グラスにいれハウスボトルの焼酎を
お客様の酒の強さや好みの割る配布聞いて
ミネラルウォーターと酒を注ぎ作り
お客様に提供するのが先でしょーが!!
と、イケナイ。取り乱したがそこは
同業者の意地とプライドでドリンクを
女の子におねだりされて頼ませないなんて
ダサい真似は絶対にしない。
普通ならボーイ呼んでチェンジを要求するか
金だけ払ってチェックアウトかもだが(笑)
タニ『・・いいよ。飲みな。』
オレっちはそう怒りを鎮めランに答える。
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