商人タニの流儀

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ー 2人目 ー 馬渕 『お客様お隣失礼します! ミドリさんでーす!ごゆっくりどうぞ』 そう声を掛けられ オレっちは目線を嬢に向ける。 今度はランとは真逆の品のある 大人しそうな透明感のある 小柄なショートカットの女性が こちらにしっかりとお辞儀してる。 タニ『ミドリちゃんよろしく♪』 ミドリ『・・お、お隣失礼します!』 凄く緊張した趣きで 隣に申し訳なさそうにちょこんと座る ミドリ『・・あっ!ミドリです!』 そう言い辿々しく店の名刺を手渡してきた。 その様子を見てオレっちは 普段より優しい口調で対応する事にした。 タニ『ミドリちゃんそんなに (かしこ)まらなくて良いよー(笑)』 ミドリ『・・ご、ごめんなさい! お、お酒の濃さどう致しますか?』 タニ 『一杯目濃かったから 薄めにお願いするよーありがとう』 ミドリ『・・は、はい!』 そう慌てふためき何度も頭を下げるながら オレっちのグラスの水滴をおしぼりで拭き ミネラルウォーターとハウスボトルを 注いでマドラーでかき混ぜている。 寡黙に凄い真剣に集中してる。 ・・・・・。 会話が途切れ気まずい空気が流れる。 ・・・どうしたものか(笑) 慣れて無い以前にこの子少し怯え過ぎでは? さっきから一度も目を合わせてくれないし 笑顔もみせてくれないだわさ。 タニ 『楽しく呑もうよ!ミドリちゃんも なんかドリンク頼みなー!』 ミドリ『あ、ありがとうございます!』 乾杯を済ます。 先程のランとは違って きっちりマニュアル通り熟しており 所作や気遣いも丁寧だわさ。 ・・きっとミドリは育ちも頭も良く 真面目で普段から良い子なんだろうな。 だが。だからこそ残念ながらこの子は この業界には向いてないだろうな…。 長くこの世界に浸かると 最初は明るく元気だった()でも 殆どの場合ストレスや プレッシャーでこの業界の闇に飲まれる。 ※ナンバーに入る様な上に登りつめる嬢は 大抵の場合何本か頭のネジがぶっ飛んでいる。 いや。それが彼女達の覚悟であり 弱肉強食とも言える水商売の世界に於ける 処世術(しょせいじゅつ)なのであろう。 生真面目(きまじめ)で気弱そうなミドリが そこの領域まで辿り着くとは到底思えない。 いや。そうなって欲しくない。 という感情がこの数分のやり取りで オレっちの中に芽生えてたのかもしれない。 しかしながら この子もあのスレ主の人物像とは違うな...。 そう思いながらも少しばかり オレっちはこの世界に場違いで ある意味浮世離れした雰囲気の ミドリに対して個人的に 興味と疑問が湧き幾つか質問する事にした。 タニ 『ミドリちゃんは この店務めてどのくらい?』 ミドリ 『・・え、えっと。まだ3ヶ月くらいです』 という事は寧々とは一応面識が あるという事だわさね。 そこら辺も一応探り入れてみるか。 タニ 『このお仕事も大変そうだよねー どうして水商売で働こうと思ったの?』 それを聞きミドリが少し悲しそうに俯く。 と、オレっちとしたことが 個人の感情で依頼とは関係ない 人の事情にズカズカと踏み込み過ぎたかな。 そう思い直ぐに謝り 話題を変えようとしたその時だった。 突然スイッチが入った様に ミドリが少し早口で喋りだす。 ミドリ 『私。昔いじめられて。対人恐怖症で。 学生時代をなんとか乗り切って、就職して そこでも人間関係が上手く行かなくて、 すぐ辞めてしまって、それで克服する為に 色々な自己啓発本とか読んで、 水商売で働こうと決めたんです!』 息継ぎを忘れてマシンガンの様に 捲し立てて早口で言葉が紡がれていく様子に オレっちは目を丸くした。 ミドリ『それで・・』 間髪入れずにミドリが 話を続けようとするが 流石にオレっちは一旦静止させる。 タニ『ミドリちゃん! 落ち着いて過呼吸になるよ(笑)』 ミドリ 『あっ・・自分の話ばかりすみません...。』 そう言うとミドリは シュンとして肩落とし耳たぶまで 顔を真っ赤に染めて顔を両手で覆う。 その姿にオレっちの母性本能にも 似た感情が芽生える。 タニ 『いやいや(笑)その話ゆっくりでいいから 続き聞きたいなー』 ミドリは無言で頷き 深く深呼吸をして再び話始めるのであった。 ※ナンバー 店にもよるが大抵の場合は 月売り上げの トップ5に入ってる嬢の事を指す。 本指名本数 同伴数 ドリンク ボトル売り上げ 場内指名数 それら全てが嬢一人一人管理され 売り上げと給料に直結する。 日毎の詳細がボードに張り出せれ 自ずと自分の貢献度や どの立ち位置なのかは 嬢それぞれが把握している。 故に競争意識やライバル心から やり甲斐にも繋がるが 嬢の中で派閥や確執も生じやすい。 女性の世界は怖い(笑)
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