特になし

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 会社の飲み会の帰りに、先輩が僕に言う。  「つまんなくなったな。彼女と別れたばかりのお前は面白かったけど、今はダメだ。」  「何が?」僕は返す。  「ピアノとかボルダリングとか、テキトーに新しいものやって、孤独から逃げるなや。おめえが孤独になった目的忘れたんか?強くなるってのはそうやって新しいもんに触れるドーパミンに埋もれることじゃねえぞ。」  僕は即座に言い返す。  「じゃあなんすか?苦しめばそれでいいんすか?新しいことを始めること、取り入れることが自分にとってマイナスなわけないでしょうが。確かに僕はチェスを愛してますよ。それでもチェスだけやっていればいいわけじゃないでしょう?ほかのことも学んで、それ活かしてチェス強くなるんでしょ?」  強く言い返す。淀みなく言葉は生まれる。それでも僕はわかってる。心の一番深いところで先輩の言葉に納得してしまっている。  僕はチェスの苦しみとか不快感、居心地の悪さをほかのきれいなものに昇華させて逃げている。  さぞ楽しい人生だろう。それでも最強はこの先にない。
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